わたしたちはそして

真冬に真夜中の住宅街で迷子になって、さむいしかなしくて泣きそうになったときに 遠くに灯りが見えて、近くまでいってみるとパン屋がパンを焼いている灯りだった。すこし開いた扉から焼きたての食パンの白い腹が湯気を立ててならんでいるのが見えて 思わず冷えきった手をあの腹に突っ込んだらどんなにあったかいだろうと思って見入ってしまった。中でパンを運ぶ紺色のエプロンの青年と目が会い、とっさに取り繕うように買えますか、と聞いた。驚いた顔でまだだめ、朝から、と答えた青年はアジア系の外国人のようだったけど、かたことの日本語で駅までの道を教えてくれた。彼のエプロンはずいぶん白く汚れていた。