くちびる知りませんか

くちのまわりに粉をつけた子供がわたしのほうを見ている もうなにも考えたくない つかれた でもやめる方法が分からなくてこんなところまできてしまった 秋祭り、という単語にむかし好きだった絵本だとか赤ん坊ほどあるきのみだとかそういったものを揺り動かすしぐさ、うそばっかりの美しい思い出がぜんぶ思い出されてしまってなみだが止まらなくなった 泣いてばっかりだ 駅の改札で仕事に行くひとを見送ってずっとずっと手を振ってわたしのことを忘れないようにって さわることのできないところが痛くて痛くてくすりをもらいにいかなくては びょういんはお盆休みなんです まだお盆休みなんですか そうですよ 医者だって病気になったり死んだりするんです くすりが足りないんです 白い容器のふちに残っているのを爪でこそげているんです もうなくなります さわることのできないところにつけるくすりはありません この
土地に行ってはいけない場所をこれ以上ふやしたくないんです ひふにつけるくすりはあっても、土地につけるくすりはありません
からだの中からやわらかい部分がなくなっていく むかしはね、どんなにひふが悪くなっても、くちびるだけはやわらかかったんだけど 今はね からだ中が乾いているみたい わたしは目が見えないのであなたのくちびるを手探りでさがしています わたしは目が見えないので文字がよめません わたしは目が見えないので