あなたの大切なけむり

実体のない大切なものは誰も大切だと言ってくれないから自分で繰り返し強く肯定しなくてはいけない 口に出して何度も、それがわたしのそばにあると言わなくては、こころが弱くなったときに関係のない人に否定されてそれがいなくなってしまう。ほんとうのこころが強くなりたい。頭のおかしい人だと思われて友達がひとりもいなくなっても、実体のないあなたといつまでも一緒にいるには、つよいつよいこころを持たなくてはいけないから。日が落ちるのがもうこんなに早い。まだ5時のチャイムも鳴らないのに街灯が白く浮き上がって見える。木の影が真っ黒く見える。それ以外は青ねずみ色に見える。雨が降っていて寒い、まだすこし早いマフラーと、襟ぐりの間からさむい風が入ってくる。はだかだからさむい。ぜんぶがはだかだから、こんなに気持ちがさむいのだ。濡れた土のにおい。濡れた土とじゃりと腐りかけの落ち葉を踏む感触がゴム底からわたしのあしへ上ってくる。何かを焼くにおいがする。雨なのに、どこかでけむりがのぼっていく。古い毛糸のにおいがする。わたしはけむりになりたいのに、煙突がないなんてひどい。わたしの鼻はばかになっていてわからない。わたしはわたしの大切な気持ちにやられてだんだん人ではなくなっていく。